【弔い姉妹】

 まどろむような日差しが降り注ぐ中、澪と繭は墓の前で手を合わせていた。
 墓前に供えられた線香の煙がそよ風にゆらゆらと揺れている。時の流れが止まったかのように、静かな午後だった。
 長いこと、目を閉じて手を合わせていた澪と繭の二人だったが、やがて二人同時に目を開けた。
 先に口を開いたのは、澪だった。
「毎年この日、ここへ来るようになって、これで四度目だね。誕生日より、今の時期のほうがお父さんに会いたくなるから不思議」
「父の日にお父さんに会いに行こうって言い出したのは、澪だったね」
 と、繭が応えた。
「うん。友達がみんな、父の日に何を贈ればいいか迷うと言ってるのを聞いて、いつもどうして?と思ってた。話せればいいじゃないって。こうしてお父さんに会いに来れば、話したいことはいっぱいある。何から話していいか分からないほど、話したいことはいっぱいいっぱいある。話せるだけで充分なのに……」
 そこで澪は言葉に詰まった。胸のうちは様々な想いが駆け巡っているようだった。
「そろそろ帰ろうか」
 澪を見かねた繭はそう言って立ち上がった。空になった水桶を手にし、歩き出す。
「じゃ、また来るね。お父さん」
 目の前の墓に向かって囁くように言った後、澪も立ち上がり、繭の後に続いた。
 墓地には二人以外、人の気配はない。二人がゆっくり踏みしめる足音が聞こえる以外、しんと静まりかえっている。墓地は墓が整然と配置されていながら、その不揃いの墓石が立ち並ぶ様は、どことなく迷路を思わせる。次の角を曲がったら、ふいに繭の姿がかき消えてしまうのではないか。そんな錯覚に、澪は繭から離れまいとするかのように後に続いた。
「澪はお父さんっ子だったからねえ」
 ゆっくり前を歩く繭が言った。その言葉に澪が微笑んだ。
「それはお姉ちゃんも同じでしょ。私たち、双子だよ。それに、どちらかと言えば、お姉ちゃんのほうがお父さんにべったりだった」
「それ言われるとつらいなあ。私、お母さんから姉としてしっかりしなさいと言われるのが厭で厭で、それでお父さんに甘えてたところがあるわね。お父さんは私たちを姉や妹の区別で見なかった」
「お父さんにとっては娘が二人いる、それだけだって、昔お父さんが言ってたよ。娘が二人で、幸せは二倍、愛情も二倍だって。本当にお父さんは私たちにいつでも優しかった。お父さんと一緒に過ごした時間は本当に楽しかった。楽しかった思い出ばかり。でも何でだか、お父さんの最期はよく覚えていない。お父さんがどうして死んだのか、思い出そうとしても記憶が曖昧で、靄がかかったようになってて、はっきりと思い出せないの」
 そう言う澪の言葉に、繭は振り返り、笑顔で言った。
「何言ってるの。澪が殺したんじゃない」
 笑いながらも、繭は刺すように澪のことを見つめていた。