柳田国男・「遠野物語」誕生

  最後に柳田國男の肉声。「旅行したおかげに、老人、百姓、影の人たちの考えを顧みないわけにはいかなくなった元なんです。つまり、埋もれてしまって一生終わるであろう、犯罪もしなければ、いいこともしないでいるというような人がね、ただ何となく息吸っていくのを惜しがって、それに関する知識を残そうとしたのがフォークロアなんですよ」。歴史にも残らない、ごく普通の人々の間で語り継がれきたことが失われてゆく。そういう危機感が柳田を衝き動かした。柳田の偉大さはその見つめる先(視点)だったんだな。身近なことを書き残そうとする人がまだまだ少なかった時代であったからとも言えるけど、無自覚さは百年前と何も変わっていない。